EV充電器の即時償却とは?急速充電器の補助金併用と節税効果を解説
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電気自動車(EV)の普及に伴い、企業がEV充電器を設置するケースが増えています。
その際、中小企業経営強化税制を活用することで、導入費用を初年度に全額経費として計上できる「即時償却」が適用できる場合があります。
この制度は、設備投資による税負担を大幅に軽減し、企業のキャッシュフロー改善に貢献するものです。
この記事では、EV充電器導入における即時償却の仕組み、節税効果、適用条件や手続きについて詳しく解説します。
目次
EV充電器の導入費用を全額経費にできる「即時償却」とは
即時償却とは、中小企業経営強化税制といった特定の税制優遇措置を利用することで、EV充電器のような固定資産の取得費用を、導入した事業年度に全額経費(損金)として計上できる会計処理のことです。
通常の減価償却と異なり、一度に多額の費用を計上できるため、初年度の課税所得を大幅に圧縮し、法人税の負担を軽減する効果が期待できます。
これは設備投資を促進し、企業の財務体質を強化することを目的とした制度です。
通常の減価償却との仕組みの違い
通常の会計処理では、EV充電器のような高額な設備を固定資産として計上し、その取得費用を法定耐用年数にわたって分割して費用化する「減価償却」を行います。
例えば、耐用年数が10年の設備であれば、毎年取得費用の10分の1ずつを経費として計上します。
これに対し、即時償却は特例措置であり、導入した初年度に取得費用の全額を一度に経費計上することが認められています。
これにより、通常の減価償却に比べて初年度の利益を大幅に圧縮でき、結果として納税額を大きく減らすことが可能となります。
即時償却の根拠となる中小企業経営強化税制の概要
EV充電器の即時償却を可能にする根拠法が「中小企業経営強化税制」です。
この税制は、中小企業が生産性向上に資する特定の設備を導入する際に、税制上の優遇措置を適用することで設備投資を後押しし、経営力の強化を図ることを目的としています。
具体的には、対象となる設備を取得した場合に「即時償却」または「取得価額の最大10%の税額控除」のいずれかを選択適用できる制度です。
EV充電器もこの対象設備に含まれるため、所定の要件を満たせば、通常の減価償却に代えて即時償却を選択し、大きな節税効果を得ることができます。
EV充電器の即時償却で得られる2つの大きなメリット
EV充電器の導入において即時償却を活用することには、税務上および財務上の大きなメリットがあります。
特に、設備投資初年度の負担を大幅に軽減できるため、事業の採算性を早期に改善する効果が期待できます。
具体的には、法人税の軽減による直接的な節税効果と、それに伴うキャッシュフローの改善という2つの側面から、企業の経営基盤を強化することに繋がります。
メリット1:導入初年度の法人税負担を大幅に軽減する
即時償却の最大のメリットは、導入初年度における法人税の負担を劇的に軽減できる点です。
通常であれば複数年にわたって費用計上する設備投資額の全額を、その年度の損金として一括で算入できます。
これにより、課税対象となる所得が大幅に圧縮され、結果として法人税の納税額が減少します。
特に利益が多く見込まれる年度に高額な設備投資を行う場合、この効果は絶大です。
投資回収期間が短縮されることで、事業の採算性向上に直結し、次の戦略的な投資への足掛かりとなります。
メリット2:手元資金に余裕が生まれキャッシュフローが改善する
導入初年度の法人税負担が軽減されることは、企業のキャッシュフロー改善に直接的な効果をもたらします。
納税額が減ることで、その分だけ手元に残る資金(キャッシュ)が増加するためです。
この余剰資金を運転資金に充当したり、新たな人材採用やマーケティング活動、さらなる設備投資など、事業成長のための他の分野へ再投資することが可能になります。
資金繰りに余裕が生まれることで、経営の安定性が増し、より柔軟で積極的な事業展開が実現しやすくなる点は、採算性向上と並ぶ大きな利点です。
知っておきたい即時償却のデメリットと注意点
即時償却は初年度の税負担を大きく軽減できる魅力的な制度ですが、メリットばかりではありません。
長期的な視点で見ると、かえって税負担が増える可能性や、企業の利益状況によっては効果が薄れるケースも存在します。
導入を決定する前にこれらのデメリットと注意点を正確に理解し、自社の経営状況や将来の事業計画と照らし合わせて、採算性を慎重に判断することが不可欠です。
翌年度以降は減価償却費を計上できなくなる
即時償却は、本来であれば耐用年数にわたって計上する減価償却費を初年度に前倒しで計上する制度です。
そのため、設備を導入した初年度に取得価額の全額を費用計上した後は、翌年度以降、その設備に関する減価償却費を計上することはできなくなります。
つまり、2年目以降は費用として計上できる金額がその分だけ減少し、通常の減価償却を行った場合と比較して課税所得が多くなる可能性があります。
初年度の節税効果は大きいものの、将来にわたるトータルの納税額が必ずしも少なくなるわけではない点を理解しておく必要があります。
利益が少ない年度は節税効果が薄れる可能性がある
即時償却の節税効果は、企業の課税所得を圧縮することによって生まれます。
したがって、設備を導入する年度の利益が少ない、あるいは赤字である場合には、その効果が限定的になる可能性があります。
例えば、多額の損金を計上しても、もともとの課税所得が少なければ、税額の減少幅も小さくなります。
また、赤字の場合はそもそも法人税が発生しないため、即時償却の恩恵を受けることができません。
将来的に大きな利益が見込まれるのであれば、複数年にわたり安定して費用計上できる通常の減価償却や、税額控除を選択した方が採算上有利になるケースもあります。
EV充電器で即時償却を利用するための適用条件
EV充電器の導入で即時償却の適用を受けるためには、中小企業経営強化税制に定められた要件を満たす必要があります。
この制度は、対象となる事業者と、導入する固定資産の両方に具体的な条件を設けています。
これらの条件を事前に確認し、自社が対象となるか、また導入を検討しているEV充電器が要件を満たしているかを正確に把握することが、手続きを進める上での第一歩となります。
対象となる事業者(中小企業者等)の定義
中小企業経営強化税制の対象となる「中小企業者等」とは、まず青色申告法人であることが前提です。
その上で、資本金または出資金の額が1億円以下の法人、もしくは資本金や出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人が該当します。
また、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主も対象に含まれます。
ただし、大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人や、複数の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人などは対象外となるため、自社の資本関係についても確認が必要です。
対象となる設備の取得価額と種類
税制の対象となる設備は、生産性向上に貢献する特定の固定資産に限られます。
EV充電器は「器具備品」に分類され、この制度の対象となり得ます。
具体的な要件としては、まず一台あたりの取得価額が30万円以上であることが必要です。
さらに、生産性やエネルギー効率などが旧モデルと比較して年平均1%以上向上する性能を持つ設備として、工業会などから証明書を取得できるものでなければなりません。
中古品や貸付けの用に供する資産は対象外となるため、新品の設備を自社で事業利用するために取得することが条件となります。
【シミュレーション】EV充電器の即時償却による節税効果はいくら?
即時償却を利用した場合の節税効果を具体的に把握するため、簡単なシミュレーションを行います。
例えば、取得価額500万円のEV充電器を導入し、その年度の課税所得が1,000万円、法人税率を30%と仮定します。
即時償却を適用すると、500万円全額が損金となり課税所得は500万円に圧縮され、法人税額は150万円となります。
一方、通常の減価償却(耐用年数10年、定額法と仮定)では、初年度の減価償却費は50万円となり、法人税額は285万円です。
この差額135万円が、初年度の直接的な節税効果となり、採算改善に大きく寄与します。
即時償却と税額控除はどちらを選ぶべき?それぞれの特徴を比較
中小企業経営強化税制では、「即時償却」と「税額控除」という2つの優遇措置から、事業者にとって有利な方を選択できます。
即時償却が初年度のキャッシュフロー改善に大きく貢献する一方、税額控除は複数年にわたる税負担を安定的に軽減する効果があります。
どちらの制度が自社の採算性向上にとって最適かは、当期の利益状況や将来の収益見通しによって異なるため、両者の特徴を正確に理解した上で慎重に選択することが重要です。
法人税額から直接差し引ける「税額控除」の仕組み
税額控除は、設備投資額の一定割合を、算定された法人税額そのものから直接差し引くことができる制度です。
課税所得を減らす即時償却とは異なり、税額を直接減額するため、よりダイレクトな節税効果があります。
控除率は資本金3,000万円以下の法人や個人事業主で取得価額の10%、資本金3,000万円超1億円以下の法人で7%と定められています。
例えば、取得価額500万円の設備を導入した場合、最大で50万円の税額が直接控除されます。
この制度は、利益額の大小にかかわらず一定の節税効果を得られる点が特徴で、採算性の見通しを立てやすいメリットがあります。
企業の利益状況に応じた最適な制度の選び方
即時償却と税額控除のどちらを選ぶべきかは、企業の利益状況によって判断が分かれます。
当期の利益が非常に大きく、多額の納税が見込まれる場合は、課税所得を大幅に圧縮できる即時償却が有利です。
これにより、初年度の税負担を最大限に軽減し、手元資金を確保できます。
一方、利益がそれほど多くない、または毎年安定した利益を計上している企業の場合は、税額控除が適していることがあります。
税額控除は複数年にわたる繰越も可能なため、長期的な視点で安定した節税効果を享受でき、事業の採算計画も立てやすくなります。
EV充電器の補助金と即時償却は併用できる?
EV充電器を導入する際には、国や地方自治体が提供する補助金を活用することで、初期投資の負担を軽減できます。
多くの事業者が気になる点として、これらの補助金と中小企業経営強化税制による即時償却が併用できるかという問題があります。
結論として、補助金と税制優遇の併用は可能ですが、会計処理上、「圧縮記帳」という手続きが必要になります。
補助金は無償で得られる収益として扱われるため、適切な会計処理が求められます。
補助金と併用する際の「圧縮記帳」の考え方
補助金と即時償却を併用する場合、補助金相当額については「圧縮記帳」という会計処理を行います。
補助金は会計上、収益として扱われるため、そのままでは法人税の課税対象となります。
しかし、圧縮記帳を行うことで、補助金を受け取った年度の課税を将来に繰り延べることが可能です。
具体的には、EV充電器の取得価額から補助金の額を差し引いた金額を、新たな取得価額とみなして経理処理します。
即時償却を適用する際は、この圧縮記帳後の取得価額が全額損金算入の対象となります。
この処理により、補助金収入に対する課税を回避しつつ、税制優遇のメリットを享受できます。
EV充電器の即時償却を適用するための手続き3ステップ
EV充電器の導入で即時償却の適用を受けるには、設備を取得する前から計画的に手続きを進める必要があります。
単に設備を購入して確定申告するだけでは認められず、事前に工業会からの証明書取得や国の認定を受けるといったステップが不可欠です。
これらの手続きを正確に踏むことで、通常の減価償却に代わる大きな税制メリットを確実に享受することができます。
ステップ1:工業会から設備の性能証明書を取得する
最初に、導入を検討しているEV充電器が中小企業経営強化税制の対象設備であることを証明する「性能証明書」を入手する必要があります。
この証明書は、設備メーカーを通じて一般社団法人日本電機工業会(JEMA)などの工業会に申請し、発行してもらいます。
証明書は、その設備が生産性向上に資する最新モデルであること(生産性が旧モデル比で年平均1%以上向上)を客観的に示すためのものです。
この書類は後の「経営力向上計画」の申請において必須となるため、設備選定の段階でメーカーに取得可能かを確認することが重要です。
ステップ2:「経営力向上計画」を策定し主務大臣の認定を受ける
次に自社の経営力を向上させるための具体的な計画を記した「経営力向上計画」を作成します。
この計画書には企業の現状分析、目標、そして目標達成のために行う設備投資の内容(今回導入するEV充電器がどのように生産性向上に貢献するか)などを盛り込みます。
作成した計画書は工業会の証明書などの必要書類を添付して、事業を管轄する主務大臣(経済産業大臣など)に提出し認定を受けなければなりません。
原則としてこの認定はEV充電器を取得する前に完了させておく必要があります。
ステップ3:確定申告時に償却資産に関する明細書を添付する
経営力向上計画の認定を受け、EV充電器を取得した後、事業年度末の確定申告において最終的な手続きを行います。
法人税の確定申告書に、即時償却を適用する旨を記載した明細書(中小企業者等が経営力向上設備等を取得した場合の特別償却の償却費の計算に関する付表など)を添付して税務署に提出します。
この際、主務大臣から交付された経営力向上計画の認定書の写しや、工業会が発行した性能証明書の写しも併せて提出が求められます。
これらの書類を提出することで、固定資産に対する即時償却が正式に認められます。
EV充電器の即時償却に関するよくある質問
EV充電器の導入にあたり、中小企業経営強化税制を活用した即時償却は非常に有効な手段ですが、制度の期限や対象範囲、手続きの難易度など、実務面で多くの疑問が生じます。
ここでは、電気自動車の充電設備導入を検討する事業者が抱きやすい、減価償却の特例に関するよくある質問とその回答をまとめました。
事前にこれらの点を確認し、スムーズな制度活用を目指しましょう。
中小企業経営強化税制はいつまで利用できますか?
中小企業経営強化税制は恒久的な制度ではなく、法律で期限が定められた時限措置です。
現行の制度では、2025年3月31日までに取得し、事業の用に供した設備が対象とされています。
税制は社会経済情勢に応じて改正されることがあり、期間が延長される可能性もあれば、内容が変更されることもあります。
したがって、制度の利用を検討している場合は、中小企業庁のウェブサイトなどで最新の情報を常に確認し、期限に間に合うよう計画的に設備導入と申請手続きを進めることが肝心です。
リース契約で導入したEV充電器も対象になりますか?
中小企業経営強化税制における即時償却は、原則として事業者が自ら購入し、所有権を持つ固定資産が対象となります。
そのため、所有権がリース会社にある一般的なファイナンス・リース契約やオペレーティング・リース契約で導入したEV充電器は、基本的にこの税制優遇の対象外です。
ただし、契約終了後に所有権が利用者に移転する「所有権移転ファイナンス・リース取引」については、税務上は売買取引とみなされるため、対象となる場合があります。
契約内容によって扱いが異なるため、リースでの導入を検討する場合は、事前に税理士やリース会社に確認することが不可欠です。
申請手続きは自社で行うのが難しいですか?
経営力向上計画の申請手続き自体は、中小企業庁のウェブサイトで公開されている申請様式や記載例を参考にすれば、自社で行うことも十分に可能です。
しかし、計画の策定には自社の事業内容を客観的に分析し、設備投資による生産性向上の根拠を具体的に示す必要があります。
また、税務申告も関わるため、専門的な知識が求められる場面もあります。
手続きに不安がある場合や、より確実性を求める場合は、税理士や行政書士、商工会議所などの認定経営革新等支援機関に相談し、サポートを受けながら進めるのが賢明な選択です。
まとめ
EV充電器の導入に際し、中小企業経営強化税制を活用することで、取得費用全額を初年度に損金算入できる「即時償却」の適用が可能です。
この制度は、導入初年度の法人税負担を大幅に軽減し、企業のキャッシュフローを改善させる大きなメリットがあります。
ただし、適用を受けるためには、対象事業者や設備の要件を満たした上で、経営力向上計画の認定といった事前の手続きが不可欠です。
また、自社の利益状況によっては、即時償却よりも税額控除が有利な場合もあります。
補助金との併用も可能ですが、圧縮記帳の会計処理を理解しておく必要があります。
電気自動車の普及を見据え、これらの税制優遇を戦略的に活用し、事業の採算性を高めることが重要です。