FIP制度とは?FITとの違いをわかりやすく解説【メリット・デメリット】
| カテゴリ:太陽光発電投資の基礎知識
FIP制度は、2022年4月から始まった再生可能エネルギーの新しい売電制度です。
従来のFIT制度とは異なり、電力の市場価格に連動する形で補助金が交付される仕組みが特徴です。
この記事では、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業者が知っておくべきFIP制度の基本から、FIT制度との具体的な違い、導入する際のメリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。
目次
FIP制度の基本概要|2022年から始まった新しい売電の仕組み
FIP制度とは、再生可能エネルギーで発電した電気を、発電事業者が卸電力市場などで売電した際に、その売電価格に加えて一定の補助額(プレミアム)が上乗せされる制度です。
固定価格で買い取られるFIT制度とは違い、市場での競争を促すことで、再生可能エネルギーが自立した電力源として成長することを目指しています。
事業者は市場の動向を意識した売電戦略を立てる必要があります。
再生可能エネルギーの自立を促す「FIP制度」とは
FIP制度は「Feed-in Premium(フィード・イン・プレミアム)」の略で、再生可能エネルギー(再エネ)の自立を促すことを目的としています。
従来のFIT制度が国によって定められた固定価格で電力を買い取ることで再エネの導入を支えてきたのに対し、FIP制度は発電事業者が自ら市場で電力を販売することを前提とします。
市場価格を意識した売電行動を促すことで、再エネが補助に依存せず、他の電源と競争できる自立した存在になることを後押しする仕組みです。
これにより、再エネが主力電源の一つとして定着することが期待されています。
市場価格にプレミアム(補助額)が上乗せされる仕組みを解説
FIP制度における事業者の収入は、「市場価格に基づく売電収入」と、国から交付される「プレミアム」の2つの合計で構成されます。
プレミアム単価は、あらかじめ定められた「基準価格(FIP価格)」から、市場価格に連動する「参照価格」を差し引くことで算出されます。
市場価格が下落すると参照価格も下がり、プレミアム単価は高くなるため、事業者の収入の急激な減少が緩和されます。
逆に市場価格が高騰すればプレミアム単価は低くなるかゼロになり、国民負担の増大を抑制する設計になっています。
FIP制度とFIT制度の主な相違点を比較
FIP制度とFIT制度は、どちらも再生可能エネルギーの普及を目的としていますが、その仕組みには根本的な違いがあります。
売電価格の決まり方から、事業者が負うべきリスク、さらには環境価値の取り扱いまで、事業運営に直接影響する重要な相違点が存在します。
ここでは、これら3つの観点から両制度の違いを具体的に比較し、事業者がどちらの制度を選択すべきかを考えるための情報を提供します。
売電価格の決定方法における違い
FIT制度では、国が定めた固定単価で一定期間、電力が買い取られるため、発電量に応じた安定した収入が見込めます。
これに対し、FIP制度では、発電事業者が卸電力市場や相対取引などを通じて自ら買手を見つけ、市場価格で売電します。この売電収入にプレミアムが上乗せされる形となるため、収入は常に変動します。事業者は電力需要が高く市場価格が上昇するタイミングを狙って売電するなど、能動的な戦略をとることでFIT制度以上の収益を得られる可能性があります。
インバランス(需給調整)リスクの負担者の違い
電力供給においては、発電計画と実際の発電量を一致させる「計画値同時同量」が求められます。
この計画と実績のズレを「インバランス」と呼び、調整にかかるコストを支払う義務が生じます。
FIT制度では、このインバランスリスクは送配電事業者が負担していました。
しかし、FIP制度では発電事業者自身が発電計画を策定・提出し、インバランスが発生した場合のリスクとコストを負担する必要があります。
そのため、より精度の高い発電量予測と需給管理能力が求められます。
非化石価値の取り扱いに関する違い
非化石価値とは、再生可能エネルギーなど、化石燃料を使わずに発電された電力の環境的な価値を指します。
FIT制度では、この非化石価値は買取義務者(電力会社)に帰属し、国が管理する市場で取引されていました。
一方、FIP制度では、非化石価値は発電事業者自身に帰属します。
これにより、事業者は非化石価値取引市場で直接売却したり、環境価値を求める企業に電力とセットで販売したりすることが可能になり、売電収入に加えた新たな収益源を確保するチャンスが生まれます。
事業者がFIP制度を導入するメリット
FIP制度は、事業者に市場と向き合うことを求める制度ですが、それに伴うメリットも存在します。
従来のFIT制度にはなかった収益機会が生まれる点が大きな特徴です。
市場価格の変動をうまく活用することで収益を最大化できる可能性や、これまで活用できなかった環境価値を直接ビジネスに結びつけられる点は、再生可能エネルギー事業の新たな可能性を広げる要素となります。
電力市場価格が高い場合にFIT制度より多くの収益が期待できる
FIP制度の最大のメリットは、電力の市場価格が高いタイミングで売電することにより、FIT制度の固定価格を上回る収益を得られる可能性がある点です。
例えば、電力需要がピークに達する時間帯や、市場価格が高騰した際に集中的に売電することで、収益を最大化できます。
蓄電池を併設し、発電量が多く市場価格が安い時間帯に充電、価格が高い時間帯に放電・売電するといった戦略的な運用も可能です。
市場動向を的確に捉えることで、収益性を大きく向上させられる可能性があります。
環境価値を独自に売買できる
FIP制度では、発電した電力の環境価値(非化石価値)が発電事業者に帰属するため、これを新たな収益源として活用できます。
事業者は、非化石価値取引市場を通じてこの価値を売却できるほか、「RE100」などの目標を掲げる環境意識の高い企業に対して、電力と環境価値をセットで直接供給することも可能です。
これにより、売電収入とは別に新たなキャッシュポイントを創出できるため、事業の多角化と収益基盤の強化につながるというメリットがあります。
事業者がFIP制度を導入する際のデメリット
FIP制度への移行は、収益向上の機会をもたらす一方で、事業者が直面する新たな課題やリスクも伴います。
市場価格の変動に直接影響される収入の不安定さや、FIT制度では不要だった専門的な業務の発生は、特に注意すべき点です。
これらのデメリットを事前に深く理解し、適切な対策を準備することが、FIP制度下で事業を成功させるための鍵となります。
市場価格の変動により収入が不安定になるリスク
FIP制度における収入は、市場価格とプレミアムで構成されるため、市場価格の変動が直接収益に影響します。
特に、太陽光発電の導入量が増加すると、晴天の昼間など発電量が集中する時間帯に電力の供給過多となり、市場価格が大幅に下落する可能性があります。
価格が低迷すれば、プレミアムで一定の補填はされるものの、FIT制度のような固定価格による安定した収入は保証されません。
この収入の不安定さは、事業計画を立てる上で最も考慮すべきデメリットです。
電力需給計画の策定や管理にコストがかかる
FIP制度では、発電事業者は「計画値同時同量」の責務を負い、30分単位での発電量予測と実績管理が必須となります。
計画と実績のズレ(インバランス)に対するペナルティも自ら負担するため、精度の高い予測が不可欠です。
このため、専門知識を持つ人材の配置や、高度な予測機能を持つITシステムの導入など、需給管理体制の構築に新たなコストと手間が発生します。
これらの追加的な負担は、特に経営資源が限られる事業者にとっては大きなデメリットとなり得ます。
FIP制度が再生可能エネルギーの主力電源化のために導入された背景
FIP制度は、再生可能エネルギーを日本のエネルギー供給における「主力電源」へと押し上げる目的で、経済産業省によって導入されました。
これまでのFIT制度は再エネの導入量を飛躍的に増やす上で大きな成果を上げましたが、その買取費用は国民の電気料金負担(再エネ賦課金)の増大につながりました。
また、事業者が電力市場の需給状況を意識せずに発電する構造的な課題も指摘されていました。
FIP制度は、再エネ発電事業者に市場メカニズムへの参加を促し、コスト効率と競争力を高めさせることで、国民負担を抑制しつつ、真に自立した電源としての普及を目指すために創設されたのです。
FIP制度を活用して太陽光発電の収益性を高める方法
FIP制度のもとで太陽光発電の収益性を最大化するには、市場価格の変動を巧みに利用する戦略が不可欠です。
最も有効な手段の一つが、産業用蓄電池の併設です。
太陽光発電量が多く市場価格が安価になりがちな日中に発電した電力を蓄電池に貯蔵し、電力需要が高まり市場価格が上昇する夕方から夜間にかけて放電・売電することで、売電単価を引き上げられます。
また、複数の発電所を束ねて効率的な市場取引や需給管理を代行する「アグリゲーター」と契約し、専門的な知見を活用することも収益性向上に繋がる有効な方法です。
FIP制度に関するよくある質問
ここでは、FIP制度について、これから事業を始める方や制度の移行を検討している方から特によく寄せられる質問にお答えします。
FIT制度との選択基準、収益の根幹となるプレミアムの計算方法、そして具体的な移行手続きといった、実践的な内容を簡潔にまとめました。制度をより深く理解し、適切な事業判断を下すための一助としてください。
これから太陽光発電を始めるならFITとFIPのどちらを選ぶべきですか?
回答:収入の安定性を最優先するならFIT制度、市場リスクを受け入れつつも工夫次第でより高い収益を狙いたいのであればFIP制度が向いています。
ただし、50kW以上の太陽光発電設備は原則としてFIP制度の対象となるため、事業規模によっては選択の余地がない場合もあります。
FIPの「プレミアム」はどのように算出されるのでしょうか?
プレミアム単価は、①事業者が収益の基準とする「基準価格(FIP価格)」から、②市場価格に連動して変動する「参照価格」を差し引いて決定されます。
この計算式により、市場価格が下落した際にはプレミアム単価が上昇し、事業者の収入減を緩和する仕組みとなっています。
FIT制度からFIP制度へ移行する際に必要な手続きはありますか?
はい、FIT認定を受けている事業者がFIP制度へ移行する場合、「事業計画変更認定申請」を国に行う必要があります。
申請が受理されるとFIP制度が適用され、その後FIT制度に戻ることはできません。
移行前に、市場取引やインバランス管理への対応準備を整えておくことが重要です。
まとめ
FIP制度は、再生可能エネルギーが電力市場の一員として自立するための新しい仕組みであり、従来のFIT制度が果たしてきた「導入促進」の役割から一歩進んだ制度です。
この制度のもとでは、事業者は市場価格の変動リスクを負う一方で、戦略的な売電によって収益を最大化する機会を得られます。FIT制度の安定性とは異なる挑戦が求められますが、FIP制度への理解を深め、適切に対応することが、これからの再生可能エネルギー事業を成功させる上で不可欠です。